NO.12
柿の種味噌

- 料理人:
- 茨城県五浦
- 大浜丸 魚力
- 村山 美代子さん

NO.12

『ほんのりピリ辛で、どんな魚にもいいのよ』
おかみさんの言葉通り、ホタルイカの美味しいとこだけ
ぐっと倍増したようなうまみに、
柿の種の香ばしさ!が広がる。
どんなに鮮度のいい魚でも、
お刺身で頂くより
この味噌ダレの方がうまいだろう。
実はこの逸品、あらゆる魚介を
一瞬にして上品な肴に変えてしまう、
魚力の秘伝の味噌ダレをベースに、
女将さんが柿の種でアレンジしてくれたものである。
付け合わせの苦菜につけて頂いてみる
さわやかな苦みとうまみが口の中で広がった。
北茨城・五浦
大浜丸魚力
この店は、北茨城の名勝、五浦灯台近くにある。
アンコウで有名な北茨城地区にあって
『どぶ汁を食べるなら魚力!』と
食通に太鼓判を押させる名店なのである。
その時々の季節の一番いいものしか
メニューに上らないから、
いつもお目当てが頂けるとは限らない。
その一徹さがまた、食通を泣かせるのである。


『今の季節は、これね!』
春先まではあった、お目当てのアンコウのどぶ汁は
もう終わってしまっていた。
しかたなく女将さんのおすすめの
アンコウの煮込み丼(1260円税込み)を頂いてみた。
あつあつを、ふうふうしながらひと口ふた口。
『うまい!』思わずにっこり。
季節のときのアンコウに比べて、確かに身はあっさり
しているが、うまみの濃厚さはより際立っているのだ。
女将さんに訳を聞くと、
真冬の一番脂ののったアンコウの肝を使って
肝みそを作っておいて、この時期のアンコウの身を
煮込んだのがこの煮込み丼なのだそうだ。
あっさりとした身に、
濃厚な肝ダレ!
なんとも洒落たおいしさなのである。
この季節、食通達は、
とびっきりの地魚で一杯飲んで、
この煮込み丼で〆るのだそうだ。
納得のおいしさである。

どぶ汁とは、水を一滴も使わずに、
アンコウの肝と味噌で、アンコウの身を炊き上げた
五浦の漁師料理である。
豪快で野趣あふれる味だが、
これだけでは、食通をうならせるには至らない。
今の味に仕立てあげたのは、
女将さんと先代であるご主人の技である。
一時間以上かけて、アンコウの肝を細心の注意で
焦がさないように煎り、旨味と油分を抽出し、
そこに半粒味噌を合わせてとろり炊き上げる。
こうしてできた秘伝の肝ダレをベースに
アンコウの身と季節の野菜を鍋で炊き上げれば
何とも上品で食べ飽きない魚力のどぶ汁となる。
『アンコウを下ろすより、肝みそを作るのは難しいのよ』
未だに、女将さんしかこの肝みそは作れない。
一度、魚力のどぶ汁の味を知ったら、
誰もが、寒い季節が待ち遠しくなるのである。
